作品 11

1986年 脇指 昭次(花押)
昭和六十一年霜月日
刃長 37.6cm 反り 0.5cm
形状 平造り、庵棟。
地鉄 (じがね) 板目肌に杢目交じり、肌立つ。
焼刃 (やきば) 互の目乱れ、沸よくつき、打ちのけかかり、刃中砂流し・金筋交じる。
帽子 (ぼうし) やや突き上げて、先小丸に返る。
彫刻 表裏に刀樋を掻き流す。
中心 (なかご) 棟小肉、鑢目筋違、先刃上がり栗尻、孔一。


寸の延びた平造りに相州伝を表現した作品である。
この形状と作風は、南北朝期に多く見られる。
地刃の躍動が、刀にも増して顕著である。
やはり銑を下げ、折り返し鍛錬回数を抑えている。

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天田昭次 作品集より

作品 12

1988年 天田昭次作
皇紀二千六百二二十八年皐月吉祥日
刃長 54.6cm 反り なし
形状 両鎬造り。
地鉄 (じがね) 小板目肌よく詰み、地沸つく。
焼刃 (やきば) 小沸出来の直刃、匂口締まりごころに小足入る。
帽子 (ぼうし) 直に焼き詰める。
彫刻 表裏の鎬に細い棒樋を掻き流す。
中心 (なかご) 鑢目筋違、先尖りごころの栗尻、孔一。

古作にも類例の少ない長剣である。全く破綻のない作品に仕上がっている。
銑を反射炉式精錬法で処理し、素材としているが、和銑であれば何でも良いというわけでは決してない。
良質の銑を求めて、全国のさまざまな砂鉄を試し、それに応じて異なる方式の炉も試みてきた。
これはと思う鋼や古鉄を銑に吹き直し、さらにこの方法で鋼としても、結果は異なる。
銑はそのまま溶かせば鋳物になり、脱炭加工することで鋼にも錬鉄にもなる。
その方法も一様ではない。
天田さんは、考え得るあらゆる可能性に挑んできたのである。

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天田昭次 作品集より

作品 13

1989年 天田昭次作之
平成元年八月吉日
刃長 73.8cm 反り 1.7cm
形状 鎬造り、庵棟、中切先延びごころ。
地鉄 (じがね) 板目肌に大肌交じり、総体に肌立ちごころ、地沸つき、太い地景入り、湯走り点々と入る。
焼刃 (やきば) 沸の深い互の目乱れ、刃中砂流し、金筋よく入る。
帽子 (ぼうし) 乱れ込み、先掃きかけて尖りごころに返る。地に湯走り入る。
彫刻 表裏に棒樋を掻き通す。
中心 (なかご) 棟小肉、鑢目筋違、先栗尻、孔一。

前出の相州伝の、一つの到達点を示す出来である。
刃縁から地に向かって沸が煙り込み、また、沸がこごって湯走りとなる個所が印象的である。
左下法によって銑を処理し、これをもって相州伝を表す行き方は、このころでほぼ終止する。銑の処理法も相州伝の追究も、以後、別の領域に入っていく。

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天田昭次 作品集より

作品 14

1992年 太刀 天田昭次作之
平成二二年皐月吉日 彫仙壽
刃長 73.2cm 反り 2.5cm
形状 鎬造り、庵棟、中切先猪首風となる。
地鉄 (じがね) 小板目肌よく詰む。
焼刃 (やきば) 華やかな丁子乱れ、匂本位に小沸つき、足よく入り、葉・飛び焼きかかる。
帽子 (ぼうし) 乱れ込んで、先小丸に浅く返る。
彫刻 表裏に角止め棒樋を彫り、樋内に表真の倶利迦羅、裏梵字・宝珠・蓮台を浮き彫りとする。
中心 (なかご) 棟小丸、鑢目筋違、先刃上がり栗尻、孔一。

大丁子あり、蛙子(かわずこ)丁子あり、それらが重花となって飛び焼きを交え、華やかな焼刃を構成する太刀である。
前出の備前伝の初期作から十八年が経過している。
当然、作風の変化や工夫があった。意図した刃文を得るための試行錯誤もあった。
中でも焼刃土は、無視できない大きな要素であった。 丁子刃は日本刀に現れた刃文のうち、最も複雑で、表現上の技巧性が高い。
土置きから刃文を、また刃文から土置きを類推するのは、常人にはまず不可能であろう。
丁子足で刃文を表現するのはたやすいが、やはり形で構成する丁子を見せたい。
狙いは、刃縁を硬く締めず、フックラとした丁子である。すると、得てして互の目丁子になりやすい。
制約条件にとらわれず、刃文の面白さを目指して試みたのが、この作である。
地鉄は、反射炉式精錬法によった。
どんな刃文も不可能ではない、との確信を持った。転機となった一刀である。

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天田昭次 作品集より

作品 15

1993年 脇指 豊月山昭次
平成五年仲春日
刃長 37.8cm 反り 0.3cm
形状 平造り、庵棟。
地鉄 (じがね) 板目肌やや肌立ち、地沸つき、地景よく入る。
焼刃 (やきば) 丁子乱れ、小沸よくつき、足長く入り、刃中金筋、細かい砂流しかかる。
帽子 (ぼうし) 乱れ込み、先小丸尖りごころに、やや長く返る。
中心 (なかご) 棟小肉、鑢目筋違、先刃上がり栗尻、孔一。

備前伝の平造り脇指である。
一部に逆がかった丁子を交え、刃縁はフックラとして柔らかい。
地には暗帯を挟んで、棟寄りにヴェールのような変化が見られる。
これが強調されると、映りである。 古作のように明瞭な映りを表現する技術は、現代刀の備前伝にとって今、最大の課題となっている。
地鉄は、銑を反射炉式精錬にかけて鋼としたものである。
折り返し鍛錬をして打ち延ばしているにもかかわらず、柾目はほとんど留立たない。
不思議である。 しかも、この鋼は焼刃のいかんを問わない。
地沸がついて、地景も現れる。感度が優れていることを示している。
「豊月山」は鍛錬所の名称である。

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天田昭次 作品集より

作品 16

1995年 直刀 天田昭次作之
平成七年正月吉日
刃長 62.2cm 反り なし
形状 切刃造り、丸棟、かます切先。
地鉄 (じがね) 小板目肌よく詰み、地沸つき、細かい地景入る。
焼刃 (やきば) 匂出来の直刃、匂口締まり、小沸つき、刃中小足入る。
帽子 (ぼうし) 直に焼き詰める。
彫刻 表裏に二筋樋を掻き流し、その上に雲形・七星文・竜頭を金像嵌で表す。
中心 (なかご) 棟角、鑢目筋違、先栗尻、孔一。

この直力は、大阪・四天王寺に伝来する「七星剣」を写している。
剣名の由来は金象嵌の文様にある。 同寺にはもう一口「丙子椒林剣」(へいししょうりんけん)と呼ぶ著名な直刀があり、いずれも聖徳太子の佩用と伝えている。舶載品と見られ、上古刀中、最も優れた作である。
既に見たように、直刀は作者の自家薬籠中の作域である。
地鉄は揺るぎなく、直刃にも全く破綻がなく、完璧である。
金象嵌は専門工の手になる。

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天田昭次 作品集より

作品 17

1996年 短刀 昭次作
平成八年二月吉日
刃長 26.6cm 反り なし
形状 平造り、庵棟。
地鉄 (じがね) 小板目肌よく詰み、地沸厚くつき、地景よく入り、梨地風となる。
焼刃 (やきば) 小沸出来の直刃、わずかに小足入る。
帽子 (ぼうし) 直に小丸に返る。
彫刻 表裏に腰樋を掻き流す。
中心 (なかご) 棟小肉、鑢目筋違、先刃上がり栗尻、孔一。

短刀は初出であるが、製作数が少ないというわけではない。
作品としては世に送らないが、新しい試みを短刀という器に盛ってみることも多い。 短刀は、小さいだけに難しいと言う刀鍛冶は多い。
手に取ると、一目で見えてしまうために、刀に比べ欠点が目立ちやすいのである。
短刀は、見た目に心地良い調和が何より大切である。
本作は、品の良い姿、精緻で美しい地鉄、端正な直刀と、あるべき短刀の条件を備えている。
殊に地鉄は、厚く霜が降りたかのような表層を通して奥の変化がのぞけ、好ましい。

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天田昭次 作品集より

作品 18

1996年 短刀 昭次作
平成八年二月吉日
刃長 27.4cm 反り なし
形状 平造り、庵棟。
地鉄 (じがね) 小板目肌、地沸つく。
焼刃 (やきば) 小沸出来の互の目乱れ。
帽子 (ぼうし) 小丸。
中心 (なかご) 棟小肉、鑢目筋違、先刃上がり栗尻、孔一。

この短刀は前掲と全く同じ年紀を切るが、製作法が異なり、従って作風もご覧の通りである。 前者が銑を吹き、これを反射炉式精錬によって鋼とする、いわゆる間接製鋼であるのに対して、これは小型タタラで鉧(けら)すなわち鋼を得る直接製鋼を採っている。
得られた鉧の炭素量がいかほどで、冴える鉄になるかどうかなどは、火花を見ただけで経験と勘から判断できる。 自家製鉄で求めるのは、鉄質が敏感でありながら、できるだけ低炭素にという矛盾した要素である。
あとの鍛錬は、折り返し回数が問題ではなく、スラグを抜くことに主眼が置かれる。
本作は、地鉄に自然な動きがあり、地刃に沸がよくつき、高低のある焼刃も冴えている。

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天田昭次 作品集より

作品 19

1996年 太刀 天田昭次作之
平成八年皐月吉日
(棟)第十二回正宗賞受賞作
刃長 76.2cm 反り 2.6cm
形状 鎬造り、庵棟、中切先かます風となる。
地鉄 (じがね) 小板目肌よく詰む。
焼刃 (やきば) 大丁子乱れ、匂深く、足よく入る。
帽子 (ぼうし) 乱れ込んで、先尖りごころに返る。
彫刻 表裏に棒樋を掻き流す。
中心 (なかご) 棟小肉、鑢目筋違、先栗尻、孔一。

三回目の正宗賞は、備前伝作品での受賞となった。
鎌倉期の豪壮な太刀姿に高い刃を焼き、華やかそのものである。
焼刃は大小の丁子で重層的に、かつリズミカルに構成される。
刃縁は匂深く、狙いとしたフックラ感も醸成された。
「天田丁子」がほぼ完成したということであろう。

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天田昭次 作品集より

作品 20

1996年 太刀 天田昭次作之
平成八年八月八日
刃長 75.6cm 反り 2.6cm
形状 鎬造り、庵棟、中切先詰まり猪首風となる。
地鉄 (じがね) 小板目肌よく詰み、地沸厚くつき、細かい地景入り、梨地風となる。
焼刃 (やきば) 小沸出来の直刃、小足入り、匂口締まり、明るく冴える。
帽子 (ぼうし) 直に小丸に浅く返る。
彫刻 表裏に棒樋を掻き流す。
中心 (なかご) 棟小肉、鑢目筋違、先栗尻、孔一。

直刃の太刀として、現代刀中でも最高傑作に挙げることができる一振である。
地鉄は全く流れず、地沸厚く、地景を散りばめ、梨子地状をなしている。
間接製鋼によっているが、素材として得心のいく銑を用いたという。
この工法が完成の域に到達したことをも示している。
なお本作の研磨は、財団法人日本美術刃剣保存協会のコンクールで特賞を受賞した。

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天田昭次 作品集より